マーベル・ユニバースの邪神

 つい先日、シュマ=ゴラスが"Mighty Avengers #2"に登場したという話題がTwitter上で流れました。
 シュマ=ゴラスは、マーベル・コミックス社(アメコミの老舗)の作品中に登場する、クトゥルー神話をモチーフとする邪神です。マーベル・ユニバース最強クラスの魔術ヒーローであるドクター・ストレンジものを中心にいくつかの作品に登場していましたが、『MARVEL SUPER HEROES』(1995年)をはじめ、カプコン格闘ゲームに登場したことで主に知られます。

 カプコン表記では「シュマゴラス」ですけれど、英語表記はShuma-Gorathなので、僕は「シュマ=ゴラス」表記に統一しています。

「シュマ=ゴラスは2回しか登場したことがない」とよく言われます。改めて確認してみると、実はこのシュマ=ゴラス、あちこちの作品でちょくちょく顔−−いや、触手の先っぽをつき出しているのです。
 拙著『ゲームシナリオのためのクトゥルー』では、このシュマ=ゴラスとDCコミックス作品に登場するムナガラーについて、「アメコミ出身の邪神」というくくりで項目を設け、主要エピソードのあらすじを紹介しました。

 宿敵ドクター・ストレンジとの2度にわたる激しい戦い、蛮人コナンの時代におけるシュマ=ゴラス復活の危機、そして1940年代のヒーローチーム「インベーダーズ」とシュマ=ゴラスの戦い−−だけど、それが全てではありません。
 ストレンジに次いでシュマ=ゴラスと縁のあるヒーローとして、ファンタスティック・フォーが挙げられます。
 例えば、"Fantastic Four"314号(1988年)。ちょうどドクターとシュマ=ゴラスの2度目の対決の真っ最中の別事件で、空を焔が走り、全世界の人々のSAN値直葬の余波が描かれています。

 こちらは"Fantastic Four Annual"23号(1990年)。マーベル宇宙の創世(時々設定変わるそうな)が描かれる'BEYOND AND BACK'において、銀河間領域の深淵に潜む「EVIL ONES」たちの中に、シュマ=ゴラスの姿があります。(ちなみに、シュマの背後にいる青い体のアレについては、現在、資料蒐集中。いずれ紹介します)

 もちろん、ファンタスティック・フォーの面々がシュマ=ゴラスと直接絡んだこともあります。今日は、そのエピソードについて紹介します。

〈眠れる、やがて起きあがるもの〉

"The Resurrection of Nicholas Scratch(ニコラス・スクラッチの復活)"は、マーベル・コミックス社刊行の"Marvel Knights 4"誌の#25から#27にかけて掲載されたエピソードです。

Fantastic Four

Fantastic Four

 発表年は2006年。『ゲークト』で紹介している『インベーダーズ・ナウ! Invaders now!』(2010年)以前に出た本なのですが、コナン・シリーズとの接続性を重視して、こちらは省きました。ぜんぶ文字数制限が悪いんや。
 主要登場人物(ヒーロー側)は、ヒーローチーム〈ファンタスティック・フォー〉の面々に加えて、ミスター・ファンタスティック(リード・リチャーズ)とその妻インヴィジブル・ウーマン(スーザン)の子供たちであるフランクリンとヴァレリア。
 そして、かつてソーサラーシュープリームと呼ばれたマーベル・ユニバース最高の魔術師であり、邪神シュマ=ゴラスの宿敵であるドクター・ストレンジ(スティーヴン・ストレンジ)です。弱体化したとはいえ、シュマ=ゴラスをどうにかできるのはやはりこの人でしょう。

 ブルックリンのサイプレス・ヒル・セメタリーで、奇妙な事件が起きました。七人の人間の遺体が墓の中から掘り出され、五芒星の描かれた石のテーブルを囲むように座らされていたのです。

 ストレンジとファンタスティック・フォーの周辺でも奇妙な事件が起き始めます。リチャーズ夫妻の娘ヴァレリアが何者かに取り憑かれた様子で仲間たちの死を予言するに至り、彼らはストレンジの家へ相談しにいきます。
 時を同じくして、ニューヨークのウィスパー・ヒルに、七人の異形の者たちが集結していました。彼らはセイラムズ・セブン。かつて、コロラド州のニュー・セイラムでファンタスティック・フォーと戦い、死んだはずでした。

 彼らを冥府から呼び醒ましたのはアガサ・ハークネス−−セイラムズ・セブンにとっては祖母にあたり、X-MEN関連作品に登場するスカーレットウィッチの師匠、フランクリ・リチャーズの乳母など様々な顔を持つマーベル・ユニバースの大魔女でした。
 彼らの父であり、指導者であった魔術師ニコラス・スクラッチを蘇らせるというアガサに協力するべく、ストレンジ邸からの帰途についていたファンタスティック・フォーを襲撃するセイラムズ・セブン。
 しかし、全てはある人物の仕掛けた罠だったのでした。彼らを戦い合わせ、混沌を現出することで、戦乱と混沌の暗黒神たるシュマ=ゴラスを復活させることこそが、黒幕の真の目的だったのでした−−というストーリーです。

このエピソードでもそうですが、シュマ=ゴラスについては〈眠れる、やがて起きあがるもの He who sleeps, but shall awake〉というフレーズをよく見かけます。これはもちろん、

"That is not dead which can eternal lie. Yet with strange aeons even death may die."

 の、パロディでありましょう。
 ヒーローたちが触手にゅるにゅるの邪神と肉弾戦を繰り広げるという点を除けば、全体的に緊張感の漂う、スタンダードなクトゥルー神話エピソードとなっています。