「ぼくは、敵対する!」

 闇の世界に生きる男・楯雁人(たて・かりと)。金さえ払えば犯罪者をも護衛するという、フリーランスのボディーガードだ。全ての攻撃を阻む鋼鉄の右手で、彼は今日も依頼者の命と心を護る。

「イージスの楯」の異名で知られる伝説的なボディガード、楯雁人を主人公とする裏社会ハードボイルドアクション『闇のイージス』は、七月&藤原コンビの手がけた『JESUS』のアフターワールドだ。完結編シリーズ『暁のイージス』とあわせると全32冊。既に皆川亮二氏作画の『PROJECT ARMS』において、『JESUS』とクロスオーバーすると言えなくもない世界観を展開した七月鏡一氏だが、この『闇のイージス』ではよりストレートに「『JESUS』から数年後の世界」であることを公言し、「オールドギース」橿原十蔵がゲスト出演するなどファンサービスを盛り込んでは『JESUS』以来の読者を愉しませてくれたものだった。
「炎の十字架」のサブタイトルを冠した11巻からは何とジーザス本人が、楯雁人と同じ「傾いた十字架の傷痕」を背負うもう一人の男として『闇のイージス』の物語の根幹に深く関わるキャラクターとして登場。彼が姿を現した全4回のエピソード「目撃者」では、1回目に傭兵時代のジーザスを思わせる後姿が、2回目にジーザスのシンボルである「砂漠の兎」のタトゥーが、そして3回目に「俺の名だ。 地獄に落ちても(以下略)」というもはや伝説的なセリフと共に殺し屋ジーザスが登場するという見事な展開が往年の七月・藤原ファンのハートを撃墜。『ヤンサン』連載漫画では空前にして絶後といわれる恐ろしいスピードで回転する2ちゃんねるのヤンサンスレ、大慌てで『闇のイージス』単行本を全巻揃えるオールドファンという近年稀に見る成功を収めたテコ入れとなったのが記憶に新しい。なお、『闇のジーザス』状態はその後18巻まで続いたという。
 さて、『闇のイージス』に先行すること2年。『ジーザス』と『闇のイージス』を結ぶミッシングリンクともいうべきもう一つの作品が存在したことは、意外に知られていないように思う。『週刊少年サンデー』が創刊40周年を迎えた1999年、記念企画の一環で41号、42号と前後編が連続掲載された七月&藤原コンビの『Dr.トゥモロウ』がそれだ。
 医師免許を持たぬ非合法医師、報酬次第でどんな患者でも治療する闇医者、粕羽明日郎(かすばともろう)。「明日なき者に明日を与える」彼を、人は「Dr.トゥモロウ」と呼ぶ−−。犯罪者であっても治療する医師、犯罪者であっても護るボディガード。立場の違いこそあれ、この粕羽明日郎は紛れもなく楯雁人の原型であり(「ぼくは、敵対する」という決めセリフが共通していることも見逃せない)、『闇のイージス』を語る上で避けては通れない作品なのだが、もう一人の登場人物によって、『Dr.トゥモロウ』は『ジーザス』とも分かち難く結びついている。即ち、藤沢真琴の存在だ。

 藤沢真琴は、ジーザスが仮の姿とした高校教師、藤沢真吾の妹として『JESUS』に登場したキャラクターである。本物の藤沢真吾は物語の冒頭時点で既に交通事故死を遂げているのだが、無邪気に兄を慕う藤沢真琴の存在は、ジーザスにとっても間違いなく護らなければならない大事な「妹」であり、強大な敵を相手に孤独な戦いを続ける彼の精神を支えとなっていたことについては、単行本を読めばわかることなので解説を割愛する。
 この藤沢真琴が、『Dr.トゥモロウ』に父の仇への復讐を心に秘めた危険な女子高生として登場している。ジーザスが去り、同時に藤沢真吾もまた姿を消した時、藤沢家でどのようなことが起きたかについては『Dr.トゥモロウ』でも描かれていないが、24(『JESUS』の仇役となる犯罪組織)の壊滅から数年後、真琴もまた闇医者Dr.トゥモロウの助手という形で裏社会に身を投じているようだ。かつて彼女の「兄」として暮らしていた頃と同じ「藤沢真吾」を名乗って日本に戻って来ているジーザス。『闇のイージス』中で彼らの再会が描かれるかどうか−−粕羽明日郎こそアナ・リドルの父親なのではないかと睨んでいたこともあり興味津々だったのだけれど、その後、七月氏が御自身のサイトの掲示板で言及されたところによると、どうやらパラレルワールド扱いのようだ。
JESUS 砂塵航路』の世界だと藤沢真琴は幸福に暮らしているのだろうか。そうであって欲しいものだ。
 それはさておき、『Dr.トゥモロウ』の単行本収録がなかなかされないので、掲載号のサンデー本誌を手放せないのであった。『パピポ』の『エンゼルダスト』掲載号も同じ理由で−−。