江戸っ子ホームズ

『イレギュラーズ』刊行後、「あれが載ってませんよ?」という指摘を幾つかいただいた。その多くは、掲載基準から外れたものだ。
 作品の良し悪し? そんなことは問題ではない。ホームズ・パスティーシュであれ、クトゥルー神話であれ、「お勧めのものを教えてください」という質問に対して僕は常に「全部読めばいいと思いますよ」と答えてきたのだからして。『イレギュラーズ』の場合、カタログの解説文にしっかりと書いてあるように、原則的に「単行本が発売されたもの」のみを扱い、雑誌やその付録小冊子に掲載されたのみの作品については割愛させていただいている。ただ、異色作ということでこれだけでも紹介しておけば良かっただろうか、と後々思い返したのが、『週刊少年ジャンプ』誌上で連載された吉沢やすみ氏の『べらんめえホームズ』だ。

 吉沢やすみ、と聞いてもピンと来ない人のために、「『ど根性ガエル』の作者」とも書いておこう−−何だか、もうナチュラルに「『ど根性ガエル』って何ですか?」とまっすぐな瞳で質問されちゃいそうな世の中なのだけど。
 この『べらんめえホームズ』、『ど根性ガエル』と同じく東京の下町を舞台に、べらんめえ口調の江戸っ子ホームズが主人公の探偵コメディだ。なお、第1話掲載号である1976年29号は週刊ジャンプのバックナンバーの中でも非常にレアな1冊で、たいそうなプレミア価格がついていることが多く、なかなか入手できないのではないかと思う。何故かといえば、カンタンなお話。よりによって、秋本治氏(この時は山止たつひこ名義)ヤングジャンプ賞入選作品『こちら葛飾区亀有公園前派出所』が読切掲載された号なのである。