家柄を重んじるイギリスでは姓が簡単に変わるの? とか考えちゃいけない

『イレギュラーズ』の発売直前にその存在を思い出し、大いに悲鳴をあげたのがカッパ・コミックス版『鉄腕アトム』の第6巻に収録されている「人工太陽球の巻」。このエピソードにはシャーロック・ホームズの子孫であり、近未来でも世界一の名探偵と称されるシャーロック・ホームスパンが登場し、謎の太陽球にまつわる事件をアトムと共に捜査する。

 このホームスパン、「家柄を重んじるイギリス人」という出自からロボットを嫌っているという設定なのだけれど、実は彼自身、かつて乗っている自動車ごとダイナマイトで爆破されたため、頭を除く全身が機械の体になっている。
 物語のクライマックスでホームスパンは頭部を銃撃され、とうとう脳を除く全身が機械になってしまう。しかし、アトムと協力して事件を追う中、ロボットへの偏見を克服したホームスパンはむしろ、自分がロボットと変わらない体になったことに誇りを持つのだった−−。こういう二律背反に満ちた、一人の人間に「究極の選択」を強制する背景と展開が、いかにも手塚治虫作品だ。
 1980年代のTVアニメ版『鉄腕アトム』では、第39話「盗まれた太陽」としてこのエピソードが映像化されていて、僕自身、リアルタイムで観た覚えがある。まあ、綺麗さっぱり忘れていたのだけれど。

 スター・システムによって配役が七色いんこに置き換わり(声の出演は富山敬)、こちらでは英国諜報員時代に重傷を負った彼の体をばらばらにし、頭部を除く全身を機械の体に改造した医師がロボットであったことから、ロボット嫌いになったのだとされている。
「ホームズの子孫」という設定はなくなったようだが、相棒であるドクター・ワクチンの存在や事務所の壁に見えるVRの銃痕など、明らかにシャーロック・ホームズを意識したキャラクターになっていた。