余談・『ニーベルンゲンの歌』などについて

 話は変わって。(次の更新というのは翌日の更新ということで!)
「限界小説研究会BLOG」という日記にあがっていた「映画『ロード・オブ・ザ・リング』三部作が切り捨てたもの」というタイトルのエントリについて重箱つつき的なコメントを投稿させていただいていたのですが、反映されませんようですので別途、こちらで書いておくことにします。

該当記事のurl:
http://ameblo.jp/genkaiken/entry-10763657500.html

ここで『ニーベルンゲンの歌』について、もう少し考えてみよう。これは英雄ジークフリートが邪竜ファーヴニルを成敗する物語であるが、


 ダウトでございます。叙事詩ニーベルンゲンの歌』の主人公は、確かに竜殺しの英雄として知られたジーフリト(ジークフリート)です。しかしながら、この竜殺しの経緯は作品の第二歌、ブルゴント王国にやってきた見知らぬ勇士(ジーフリト)について、トロネのハゲネ(ハーゲン・フォン・トロイエン)が噂として聞き知ったジーフリトの過去の武勲として語られるものです。「竜の血を体に浴びたことで硬化した」というジーフリトの肉体(並びにその弱点)についての説明にはなっておりますが、「邪竜ファーヴニルを成敗する物語」であるかというと決してそういうことはありません。宮本武蔵の晩年を描く物語について、「宮本武蔵佐々木小次郎を打ち倒す物語」と書くようなものであります。(なお、僕の持っている岩波文庫版では、「ファーヴニル」の名前すらも作中で言及されておりません)
 ジーフリト(シグルズ)による竜退治は『ニーベルンゲンの歌』ではなく、「古エッダ」や『ヴォルスンガ・サガ』などの北欧神話の物語、そしてこれらを題材とするリヒャルト・ワーグナーの楽劇『ニーベルングの指環』中で描かれるエピソードです。
 ひょっとすると、『ニーベルングの指環』とタイトルを取り違えたのでは−−? 記事の筆者は続けてこのように書いています。

同時に復讐鬼クリームヒルトと簒奪者ハーゲンとの骨肉相食む争いを描いた家内劇でもある。


ニーベルングの指環』の物語は、竜に変身した小人ファフナーを退治した後(第2日)、謀略によってかつて誓い合った永遠の愛を忘れてしまったジークフリートに対するブリュンヒルトの復讐、そしてヴァルハラの館の炎上によってラストを迎えます。(第3日)
「復讐鬼クリームヒルトと簒奪者ハーゲンとの骨肉相食む争い」は、確かに『ニーベルンゲンの歌』で描かれる物語ですので、取り違えということはないかと思われます。この点について、限界小説研究会のグループ内で指摘される方はいらっしゃらなかったのでしょうか。
(今気がついたのですけれど、ニーベルング伝説は館エンドの祖形の一つかも? 要調査事項として心の片隅に大きくメモ)
 以後も、「白豪主義」の用法上の誤りなど、細かいところで気になる部分のある記事でした。参考文献ともども、諸々、再読をお勧めします。

ニーベルンゲンの歌〈前編〉 (岩波文庫)

ニーベルンゲンの歌〈前編〉 (岩波文庫)

ニーベルンゲンの歌〈後編〉 (岩波文庫)

ニーベルンゲンの歌〈後編〉 (岩波文庫)

ジークフリート伝説 ワーグナー『指環』の源流 (講談社学術文庫)

ジークフリート伝説 ワーグナー『指環』の源流 (講談社学術文庫)

付記(2011/01/22 17:30)
 リンク先記事にて、叙事詩ニーベルンゲンの歌』の物語に竜退治のエピソードを追加したフリッツ・ラング監督の映画『ニーベルンゲン(原題は"Die Nibelungen"』(1924年)の話ということで、修正が入りました。(筆者より連絡あり)
 ところで、白豪主義の件は?