マーブルヘッドのネプチューン

 以前書いたエントリへの追記。
 ノーデンスが登場する「霧の高みの不思議な家」の舞台は、ラヴクラフトが創造した架空の港町であるキングスポート。では何故、キングスポートがノーデンス顕現の場所とされたのか−−それについては、ひとつの私説があります。
 キングスポートのモデルとなったマサチューセッツ州のマーブルヘッドには、「リー・マンション」というハウスミュージアムがあります(セイラムのピーバディ=エセックス博物館の管理下)。筆者は、この施設を2008年の夏に訪れているのですが、階段をあがった先の2階の壁(ないしは隣接する部屋の壁)に、三叉の鉾を持ったネプチューンの絵が飾られているのです。

 残念ながら建物内は撮影禁止だったので、こちらは帰国後にボストンのお土産物屋から通販で取り寄せたお皿(件のリー・マンションの絵をモチーフとしたもの)の写真となります。訪問時、ガイドの方からお聞きした話では、リー・マンションがハウスミュージアムとして公開されたのは、ラヴクラフトニューイングランド地方各地を頻繁に旅行していた時期の少し前。彼が1920年代に幾度かマーブルヘッドを訪れた時、この建物を見学した可能性は非常に高い。何故なら、「インスマスを覆う影」にニューベリーポートの歴史協会についての描写があるように、ラヴクラフトのように地元の歴史に興味を抱く旅行者は、町毎に存在し、たいていハウスミュージアムを兼ねている歴史協会を訪ねるのが常でした。そして、リー・マンションは、マーブルヘッドの歴史協会から目と鼻の先にあるのです。
 そしておそらく、リドニー神殿のプレートのことを知っていたラヴクラフトは、そのネプチューンの姿から、海神たちを従えたノーデンスのことを思い浮かべたのだろう−−今のところ仮説以上のものではありませんが、リー・マンションの古い訪問者リスト(森瀬も記名してきました)の中から、彼のサインを見つけることができれば……。