ラノラダの兄弟

 閑話休題−−と、ここからが本題。
 H・P・ラヴクラフト自身の口(というか筆)で、クトゥルー神話とペガーナ神話の結び付きについて直接的に言及されたことが1度、あったりする。
 ラヴクラフトは、1930年10月7日付のC・A・スミス宛ての手紙の中で、次のように書いている。

「ダンセイニ卿の作品に出てくるラノラダは、神々が彫刻したもので、ボドラハーンから出る駱駝の道のかなたにある砂漠中の砂漠、第七砂漠に立っていますが、ツァトゥグァはそのラノラダと実の兄弟です」


 このラノラダというのは、正確には神ではない。マアナ=ユウド=スウシャイの秘密を知ってしまったがために、沈黙を続けている叡智の神フウドラザイの似姿として丘に彫り込まれた神像だ。「曠野の眼」とも呼ばれている。
 先に掲げたラヴクラフトの手紙は、スミスから贈られたツァトゥグァの彫像への返礼だ。「ラノラダ(神像)と実の兄弟」というのは修辞的な表現であって、血縁を示すものではないのかも知れない。
 とはいえ、ラヴクラフトが言っちゃったからにはしょうがないよね、前向きに解釈していかないと……というのもまた業の深いクトゥルー者の受け取り方ではある。今後、クトゥルー神話作品中での活用例を待ちたいところ。
 ちなみに、画家、彫刻家でもあったスミスの作品の一部は、こちらのサイトで閲覧することができる。ラヴクラフトに贈ったものとは別のものと思われるが、ツァトゥグァ像の写真も掲載されている。

参考リンク:
Gallery of Art by Clark Ashton Smith

時と神々の物語 (河出文庫)

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