イカモノ料理人、三たび現る

 来る12月22日、菊地秀行氏のクトゥルー神話怪作『妖神グルメ』が、日本人作家によるクトゥルー神話小説レーベル「Cthulhu Mythos Files」の2冊目として創土社さんから発売されます。
 神保町の書泉ブックマートでは20日の内に店頭で先行販売が始まり、本日開催の復活記念イベント「菊地秀行とクトゥルー神話」のサイン会整理券が購入者に配布されました。「Cthulhu Mythos Files」1冊目の『邪神金融道』がA5版だったのに対し、『妖神グルメ』はノベルサイズの新書版。店頭で探される際には、どうかお見落としのなきよう。


 そう、復活。『妖神グルメ』はこれまでに2度、刊行されました。最初は今は亡き朝日ソノラマ社のヤングアダルトレーベル、ソノラマ文庫から1984年6月に刊行され、増刷を重ね続けておりました。その後、同文庫の兄弟レーベルであるソノラマ文庫ネクストの方から2000年2月に改めて刊行される運びとなります−−が。残念ながら短命に終わったこのレーベルと共に店頭から間もなく消えてしまい、その後、長きにわたって入手困難な本となっていました。
 以下、拙編著『クトゥルー神話ダークナビゲーション』より、『妖神グルメ』の紹介テキストを引用します。

 夢みるままに復活の刻を待ちいたる邪神クトゥルーは、永劫の時の中ですっかり腹を減らしていた。餓えた神を満足させるために、世界最狂のゲテモノ料理人・内原富手夫に邪神崇拝者達の白羽の矢が立った。
 かくして、世界に数多ある邪教教団と、邪神復活を阻止せんとする国家権力が、内原を求めて激しい攻防を繰り返すことになる。やがて事態は想像を越えた展開へと突入。邪神を満足させる究極の食材とは何なのか?
 H・P・ラヴクラフトを信奉し、彼がその生涯を過ごしたプロヴィデンスにも足を運んだ菊地秀行の最初の本格クトゥルー神話作品として知られる本作は、一見やりたい放題に見えてその実正統的な神話的要素の解釈や、ダゴン原子力空母などの迫力ある戦闘シーンなど、読み所の多い作品である。


 1980年代のクトゥルー神話シーンにおいて、きわめて重要な役割を果たしたエポック・メイキングな作品でありつつも、菊地秀行作品全般に共通する「突き抜けたシリアスはギャグになりうるし、突き抜けたギャグはシリアスになりうる」というあの空気感が濃厚に漂うその作風には、ついに菊地氏その人を除き、フォロワーが現れませんでした−−少なくともクトゥルー神話ジャンルにおいては。
 影響という点で言えば、ニトロプラスから2003年に発売されたAVG斬魔大聖デモンベイン』のシナリオを手掛けた鋼屋ジン氏は、『妖神グルメ』におけるダゴンVSカールビンソンに魂を揺さぶられ、それが『デモンベイン』における量産型ダゴンの押し寄せる大海戦シーンに繋がっていったのだと語っています。
 クトゥルー神話小説読みの間ではあまりにも有名な作品なので、今更『妖神グルメ』についてくだくだしく申し上げることもございますまい。せいぜい、実業之日本社の「魔界都市ガイド鬼録」の1冊として、内原富手夫が再登場する『妖神グルメ』の後日談ともいうべき『邪神迷宮』が発売されている−−ぐらいのものでしょうが、そんなことは皆様先刻ご承知のことと思います。
 よって、本日の更新では大変遅ればせながらではありますが、「Cthulhu Mythos Files」の幕開けを飾った『邪神金融道』についてご紹介しようと思います。

妖神グルメ (The Cthulhu Mythos Files2)

妖神グルメ (The Cthulhu Mythos Files2)

クトゥルー神話ダークナビゲーション

クトゥルー神話ダークナビゲーション

邪神迷宮 魔界都市ガイド鬼録 (実業之日本社文庫)

邪神迷宮 魔界都市ガイド鬼録 (実業之日本社文庫)