『グラーキの黙示録』の最新設定

 ラムジー・キャンベルの〈最新作〉、"The Last Revelation of Gla'aki(グラーキ最後の黙示録)"をようやく入手しました。

The Last Revelation of Gla'aki

The Last Revelation of Gla'aki

 発売日は2013年6月1日となっているのですが、なかなかネット書店で出回らず、翻訳家の尾之上浩司氏やダーレス研究家の竹岡啓氏などと、「本当に出ているんだろうか……」とちょくちょく話題にしていたのでした。
 キャンベルは、H・P・ラヴクラフトの時代にはいささか遅れましたが、アーカム・ハウスの熱心な読者たちの中から作家として引っ張りあげられた、英国在住の第二世代クトゥルー神話作家の一人。グラーキ、ダオロス、イゴーロナクなどの邪神や、禁断の書物『グラーキの黙示録』、英国のグロスターシャーにあるブリチェスターやゴーツウッドなどの地方都市や町を生み出した怪奇作家です。
 まずは、リンク先で表紙イラストを御覧ください。『クトゥルフ神話TRPG』などでは、いわゆる「ガマ口」のグラーキですが、筒の内側を牙がぐるりと取り囲んだデザインになっています。この段階で、ちょっとした衝撃が駆け巡ったものでした。
 ちなみに、竹岡氏は既に読了したそうで、「これはまさしくキャンベル版『アーカム計画』」「フリッツ・ライバーの『闇の聖母』に雰囲気が似ている」(大意)とのことです。

 さて、"The Last Revelation of Gla'aki"。山頂が雲の上に隠れて見えない勢いで仕事を積み上げ過ぎたので、20ページほどを読み進めたところでストップしているのですが、冒頭の3ページだけでこれまでに見たことのない『グラーキの黙示録』にまつわる書誌設定が次々と提示されて、例えようのない興奮を覚えました。
 何しろ、『グラーキの黙示録』生みの親たるラムジー・キャンベル自身の作品、そして新設定です。
 気にするなというのが無理というもの。


 以下の情報は、ラムジー・キャンベル"The Last Revelation of Gla'aki"の冒頭に掲げられた、レナード・フェアマン(ブリチェスター大学アーキビスト、『稀鳥:ブックハンター・マンスリー』客員コラムニスト)による文章に基づくものです。


『グラーキの黙示録』の唯一の印刷本は、1865年にマッターホルン・プレス(ロンドンのハイゲート)から刊行された9巻本です。
 件の9巻本の編者は「パーシー・スモールビーム」となっているようですが、これは偽名であろうとレナード・フェアマンは書いています。なお、オカルトライターのジョン・ストロングによる指摘として、このスモールビームなる人物が、「Gla'aki」の「'」を読みやすくするために省略したという話も出てきます。
 フェアマンは更に、「リヴァプール版」は、RPGゲーマーのこしらえた設定で、マッターホルン・プレスとは無関係という物凄いことを言い出します。最初のページで、いきなりCoC設定への肘鉄ですよ。(本当にそういうことが書いてあります)
 ちなみに、『グラーキの黙示録』について、「全9巻で1865年にリヴァプールフォリオ判で出版」と解説しているのは、ケイオシアムから発売されている『クトゥルフ神話TRPG』の副読本の一冊、『クトゥルフ神話TRPGキーパーコンパニオン』です。
 キャンベル作品の設定については、彼の許諾を受けて制作されたソースブック"Ramsey Campbell's Goatswood and Less Pleasant Places: A Present Day Severn Valley Sourcebook and Campaign for Call of Cthulhu"でまとめられていますが、こちらにはリヴァプール版についての記述はありません。

クトゥルフ神話TRPG キーパーコンパニオン 改訂新版 (ログインテーブルトークRPGシリーズ)

クトゥルフ神話TRPG キーパーコンパニオン 改訂新版 (ログインテーブルトークRPGシリーズ)

Ramsey Campbell's Goatswood and Less Pleasant Places: A Present Day Severn Valley Sourcebook and Campaign for Call of Cthulhu

Ramsey Campbell's Goatswood and Less Pleasant Places: A Present Day Severn Valley Sourcebook and Campaign for Call of Cthulhu

  • 作者: Scott David Aniolowski,Gary Sumpter,Richard Watts,J. Todd Kingrea,Clifton Ganyard,Rob Malkovich,Steve Spisak,Mike Mason,David Mitchell
  • 出版社/メーカー: Chaosium
  • 発売日: 2001/10/01
  • メディア: ペーパーバック
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 このマッターホルン・セットは200人に届かない数の予約購読者のみに販売されました。なお、『グラーキの黙示録』の出版は、マッターホルン・プレスの唯一の仕事であったように思われるということです。
 同社の創設者は、1862年に復活したケンブリッジ大学ゴースト・クラブと結び付けられており−−。このクラブは実在の心霊研究団体で、1855年に同大学のトリニティ・カレッジで発足した組織の二代目です。公式サイトを見ると、過去のメンバーとしてチャールズ・ディケンズ、ピーター・アンダーウッドなどの名前が並んでいるようです。
『グラーキの黙示録』の9巻本は、ブリチェスター近くのディープフォール・ウォーターのあたりで活動していた怪しげなカルトの手になる11巻本を底本としているようです。これは、キャンベルの「湖畔の住人」で説明されているグラーキのカルトでしょうね。『クトゥルフ神話への招待 古きものたちの墓』に収録されています。

『ゲームシナリオのためのクトゥルー神話事典』にも書きましたが、ラムジー・キャンベルはすでに、ロバート・M・プライスの『グラーキの黙示録』設定を21世紀の作品でわざわざ上書きするという前例もちです。
 ちなみに、マッターホルン・プレスの語が出てきた時に、既存の作品で言及があったかどうか、念のためGoogle様にお聞きしてみたところ、英語WikipediaのGlaaki項目に記述がありました。
 どうやら"The Last Revelation of Gla'aki"発売日の数日後に付け加えられたようで、何とも素早いファンがいるものだと更新履歴を確認したところ、更新者のユーザ名は「Ramsey Campbell」でした。わーお。
『グラーキの黙示録』については、この他にも英国の魔術師アレイスター・クロウリーの蔵書に含まれ、彼の霊感の源泉になったというびっくりするような情報が次々出てきます。興味のある方は、取り寄せてみると良いでしょう。